複刻 江戸切絵図 全32図   参考資料 
八町堀細見絵図について 
 
絵図クリックで拡大

八町堀細見絵図 文久2年(1862) 岩橋美術復刻 東京都公文書館蔵
 
与力と同心の町“八町堀”
尾張屋の江戸切絵図は嘉永2年(1849)発売の「御江戸大名小路絵図」「築地八町堀日本橋南絵図」の2図からスタートしますが、その12年後の文久の3年間(1861~1863)に日本橋南を3分割し、それぞれの地域を拡大した「京橋南築地絵図」(文久元年)、「八町堀細見絵図」(文久2年)、「霊岸嶋八町堀日本橋南絵図」(文久3年)の3図を板行します。

その一つの「八町堀細見絵図」は、南北町奉行配下の役人、いわゆる“八町堀の旦那衆”と呼ばれた与力・同心が集中して住んでいた八町堀の細見図で、役人屋敷と屋敷の一部を借地している生業者(主に医師)の絵図です。↗

   

↗江戸の町奉行は南町と北町が月番で分担し、それぞれに与力、同心が配置されていましたので、絵図上でもそれが識別できるように南配下は薄青、北配下は薄赤に地色を色分けし、与力の氏名の頭には“㋕”を付けて、無印の同心との選りわけができるようになっています。(図1,2)

江戸学事典(弘文堂)によると、嘉永2(1849)年当時の南町奉行所と北町奉行所の与力の数はそれぞれ25人と決められていたそうですが、13年後の文久2(1862)年板行のこの絵図では、㋕の付いた与力は南北とも23人、㋕のついていない同心の数は95人前後です。
 
1 「八町堀細見絵図」文久2年の凡例
(東京都公文書館蔵) 
南町奉行所配下(薄赤)と北町奉行所配下(薄青)の与力が色分され、それぞれ探しやすい工夫がされている。

 


 
2 「八町堀細見絵図」文久2年部分(東京都公文書館蔵)
南と北の町奉行配下の与力屋敷が色分けされている。㋕は与力、無印は同心。医(医師)、手(手習い)、刀法(武術) 儒(国学)等が見えるが、多くは与力の屋敷内にあり、借地していたらしい。

     
 
土地を貸して生活費に補填していた与力
与力の所有地の広さはおよそ250坪から350坪、同心は100坪余だったそうです(江戸学事典)。八町堀細見絵図を見ると、与力の広い土地の中に“医”とか“勾当”“検校”“歌人”といった文字が頭についた人名が多数ありますが、これは与力がこれらの生業(なりわい)の人に土地の一部を貸して生活費に補填していたそうです。

この絵図中の借り手の数を生業別に数えてみると、医(医者)=32、勾当(事務官)=9、検校=4、手(手習い?)=6、歌人=2、御用達=2、手跡(書記?)=1、金座人=1、刀法=1、能(能役者)=1、儒(国学者)=1、心学(道徳)=1、具足師=1で、そのほか変わったところで吉床(床屋 ろ参)、初音(駕籠屋? は弐)が見えます。

近江屋板を大胆に改変した尾張屋の工夫
尾張屋板「八町堀細見絵図」(文久2年)は、近江屋が8年前に出した「本八丁堀辺之絵図」(嘉永7年)に幾つかの変更を加えて板行したものでした。両者とも八町堀に限った区域を扱っているのは同じですが、使いやすくするための尾張屋の工夫を随所に見ることが出来ます。

①7色の彩色地図 近江屋が墨、黄、薄青の淡彩3色で刷っているのに対し、尾張屋は墨、青、朱、黄、灰、薄青、薄赤の濃彩7色を使い、見やすく、華やかになっています。
   

②方位を180度回転 尾張屋は近江屋板の絵図の天地を逆さまにしています。近江屋板の本八町堀辺之絵図は東を上にしているのに対し、尾張屋板はそれを180度回転させて西を上にしています。
この区域は東を上にすると江戸湾が絵図の上方にきて、江戸城が真下の方角になります。八町堀細見絵図には江戸湾も江戸城も出てきませんが、尾張屋板は江戸城が真上の方角に来るように変更されていました。

③旦那衆の表示を工夫 近江屋の八町堀絵図は、与力に片仮名で“ヨ”を付け、南町奉行所の配下衆には▲、北町には●を名前の頭に付けて区別しています。尾張屋は前述のように与力に㋕を付け、同心は無印、南北の所属は地色を薄青と薄赤にしています。絵図を開いた時に南北の配置状況が一目で分かり、目的の与力や同心の屋敷が探しやすくなっています。

④借り手の生業を表示 近江屋板は与力の土地を借りていた人名を、“勾当”“検校”だけは杉浦勾当”“篠崎検校”と表記し、ほかの生業の借り手については鈴木良庵、小泉仙竜、あるいは松寿堂、竜翔堂などと号を入れてあるだけです。生業が分からないように?しています。
尾張屋は勾当、検校以外の生業にも医、手、歌人、能の文字を氏名の頭に付けて、名前と生業の両方がわかるようにしています。
 
参考文献
江戸切絵図集成 斎藤直哉 朝倉治彦 中央公論社1981-84
江戸図の歴史 別冊・江戸図総覧 飯田龍二 俵元昭 築地書館 1988
江戸切絵図の世界 別冊・歴史読本 60号 新人物往来社1998

文責・岩橋美術 岩橋文武©
 
 

 江戸切絵図中の武家姓ベスト7、鈴木161、加藤92、小林91、山本83、中村74、吉田68、内藤67、別格で松平174。 


江戸切絵図の  全32図一覧  区分一覧  板行年一覧  収納ケース  総索引  


お問い合わせは下記へ





製作・発売 
岩橋美術
 

〒285-0922 
千葉県印旛郡酒々井町中央台3-3-1
中央台ハイツ5-104

電話 043-496-7454 
携帯 
090-1035-5256
FAX 
043-496-7482
 
メール ::  
infomasa@iwabi.jp
URL゙ :
 iwabi.jp(検索)

copyright. 2004-2007 iwahashibijutsu
all rights reserved

無断転載使用禁止